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工藤美知尋氏、令和6年12月 能『鉢木(はちのき)』公演

1 長井市出身の工藤美知尋氏(77歳)は、令和6年12月8日、米沢市にある置賜文化ホール(伝国の杜)の能舞台で、能『鉢木(はちのき)』を公演することが決まった。鎌倉時代の東国武士、佐野源左衛門常世が登場する物語で、鎌倉武士の心意気を表す「いざ鎌倉」の言葉の由来でもある。零落しながらも志を失わない常世の姿は、上杉武士に重なる。

◆能「鉢木」の主人公 東国武士佐野源左衛門常世
 源頼朝によって鎌倉幕府が創設(1185年)されたが、頼朝やその子らによる治世は長くは続かなかった。頼朝の死で、御家人と言われる幕府に仕えた坂東武士らが互いに争い、その後に頼朝の妻北条政子の実家である北条氏が執権となり、北条義時の代からは鎌倉幕府の支配者となった。
 「いざ鎌倉」という言葉がある。その意味は「主君に何がしらの緊急事態が起きた場合は、何をさておいてもいち早く駆けつける」という意味で使われている。実はこの言葉は、能『鉢木(はちのき)』で表現されている鎌倉武士の心意気を表すものである。
 能『鉢木』は、鎌倉時代に現在の栃木県佐野市あたりに住んでいた実在の東国武士、佐野源左衛門常世を主人公にした物語である。そのあたりは、上杉家が関東管領(かんとうかんれい)を勤めていた場所でもある。関東管領は、室町幕府が設置した鎌倉府の長官、鎌倉公方を補佐する役職で、上杉氏が代々世襲し、永禄4年(1561)に、上杉憲政は山内上杉家の家督と関東管領の役職を、越後長尾氏の長尾景虎(のちの上杉謙信)に譲った。上杉家臣の末裔が住む米沢市民にとっても大いに関わりがある物語と言えよう。
 第5代執権北条時頼(1227〜63)は、名君として知られ、能の『鉢木』の中で、時頼は諸国を旅して民情視察を行なった「廻国伝説」が物語られている。
 雪が降る12月、鎌倉幕府の執権北条時頼は、修行僧に身を包んで諸国を行脚していたが、佐野のあたりに来た時に大雪のために立ち往生してしまい、領地争いのために零落していた佐野源左衛門常世方に一夜の宿を所望した。しかし、貧窮にあえいでいた常世は一度はそれを断った。しかし、この修行僧を哀れと思った常世は翻意して一夜の宿を提供した。
 常世がもてなすものなどは何もなく、あるのはただ粟(あわ)だけ。夜が更けるにつれて、寒さが一層身にしみてくると、常世は秘蔵にしてきた「鉢の木(梅・桜・松)」を燃やして、修行僧のために暖をとらせた。
 修行僧がいろいろ問うと、常世は今の境遇に至った経緯を話した。「今は零落している身だが、東国武士としての誇りや志を喪った訳ではない。非常の際は、一番に鎌倉へ駆けつける所存である」と述べた。
 それから数か月が経った。修行僧姿の時頼は鎌倉に戻り、執権職にあった。そして、突然、東国全域に「陣ぶれ」を出したのだ。
 時頼は家臣に、「かつて佐野で出会った佐野源左衛門常世の所存の真偽を試すべく陣ぶれを出した」と家臣に言った。鎌倉には多くの侍たちが駆けつけ、その中にはやせ馬に乗ってやってくる佐野源左衛門常世の姿があった。時頼は常世の「東国武士」としての誇りと気概に感じ入って、佐野に常世の所領を安堵し、「鉢木(梅・桜・松)」に因んで、加賀の梅田、越中の桜井、上野の松井田の三つの庄を与えることを約束したという。

◆能「鉢木」を舞う長井市出身の工藤美知尋氏
 能「鉢木」は、上演時間が約90分にも及ぶ大作。しかも謡と所作が絶妙に相俟った大作である。シテ(能を舞う役者)は、長井市出身の工藤美知尋氏が演じる。
 工藤氏は、2002年に観世流師範取得、所属は観世流「梅猶会」能楽師。これまでシテを務めた演目は、清経、船弁慶、井筒、三輪、天鼓(観世能楽堂・梅若修一師に師事)。そのほか、舞囃子多数。小鼓を大倉三忠師、太鼓を助川治師に師事した。
 工藤氏は、昭和22年(1947)長井市生まれ、長井高校、日本大学法学部卒業、同大学大学院で修士課程を修了後、ウィーン大学に留学し、東海大学大学院で博士課程を修了。(政治学博士)現在は、日本大学法学部専任講師。前東京鷹桜同窓会会長。ふるさと長井会理事。米沢有為会理事・同東京支部長を務める。日本ウェルネススポーツ大学で、教授(文章表現。日本外交史)、日本海軍史研究者、著述業として活躍している。
 これまで『日本海軍と太平洋戦争』、『日ソ中立条約の研究』、『海軍良識派の支柱山梨勝之進』、『日本海軍の歴史がよくわかる本』、『東条英機暗殺計画』、『終戦の軍師 高木惣吉海軍少将伝』、『米沢海軍―その人脈と消長』などを著し、日本の外交史、軍事の歴史に精通している研究者という顔を持つ。

◆佐野源左衛門常世と通じる上杉武士、そしてその末裔
 工藤氏は、「鉢木」演能の目的として、零落しながらも志を失わない東国武士佐野源左衛門常世の姿は、上杉武士(米沢藩士)の面目と志に重なり合うと述べる。常世の初一念は、米沢藩の士風や文化を引き継ぐ子孫である米沢や置賜地方に住む人たちの生き方そのものでもあるのだ。佐野氏を苗字に持つ家が米沢市には幾つかある。
 今回の公演では、上杉家、米沢藩の歴史を改めて振り返る機会になるに違いない。私たちの子孫に残していくべき文化の一つともなる。公演は4つのプログラムからなり、はじめに日本舞踊『松の緑』(長唄)が披露される。坂東若梢(ばんどう・わかしょう)さんは、元坂東流理事、日本舞踊協会主催「新春舞踊大会」で会長賞となり、大会賞受賞3回の実力派。続いて、「鉢木」の解説、仕舞2番、最後に能「鉢木」が演じられる。
 能「鉢木」は、戦前は、修身(道徳)の教科書にも掲載されるほど有名な物語で、冬の季節が演目と重なるため、東京では12月から2月頃に演じられることが多い。能楽師が18人と編成が大きく、米沢市での公演はまたとない貴重な機会となる。
 公演は、12月8日午後2時から同4時30分まで。主催は工藤美知尋氏、名義後援は米沢有為会・長井高校鷹桜同窓会、長井市、白鷹町、米沢市、米沢興譲館同窓会などが名前を連ねる。
 チケットは、「伝国の杜」(米沢市):TEL0238−26−8000ほかで取り扱う。チケット料金 大人:4000円、子ども学生:2000円、全席自由席、6月6日から前売り販売開始中。