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<初折表>
満開の桜の道を知るは誰 加津
妖精のごと蝶ひとつ舞ふ ひろ子
里山の木の芽日ごとにふくらみて つとむ
前触れもなく旧き友来る 昭
二人して連ね歌など試みむ 讓
ふり返り見る一葉落つるを 加津
切り絵めく弓張月の空に浮く ひろ子
温め酒をともに楽しむ つとむ
<初折裏>
故郷は遠くなりゆくばかりなり 昭
夢より覚めて手の皺を見る 讓
人恋うてかな文字のふみ送りをり 加津
夜汽車のドアの無情に閉まる ひろ子
新しき吾をさがしにひとり旅 つとむ
冬の山寺影長く曵き 昭
奥の院冴えたる月に照らされて 讓
歌を忘れたカナリアのごと 加津
あの時の母の仕草に似てきたり ひろ子
味加減みる人差指で つとむ
亀の甲背なに子が乗り孫が乗り 昭
谷間にひそと残りし民家 讓
花吹雪人の世のゆめ風のなか 加津
春の愁ひのただ中にあり ひろ子
<名残表>
耕人のときをり仰ぐ吾妻山 つとむ
会津へ繋ぐ残雪の道 昭
反骨の気風今なほそこここに 讓
絵の中の赤ことにはげしく 加津
釉薬の思ひもかけぬ色を出し ひろ子
朝な夕なに掌にとりて見る つとむ
子に頒つつもりのトマト育てをり 昭
ひと仕事終へ気持よき汗 讓
異国語のにぎはふ電車われ一人 加津
マスクをはづし薄化粧して ひろ子
水澄める曽遊の地の美しき つとむ
彩る山の懐かしきかな 讓
有明の頃より待ちし月今宵 昭
いろ鳥の声はるかにきこゆ 加津
<名残裏>
湯上りの石けん匂ふ嬰の肌 ひろ子
握る指のやはらにつよく つとむ
指揮をとる音楽堂に熱気満ち 昭
滔々として大河は流れ 讓
見渡せば連なる山はかすみをり 加津
闇に育ちしよろづ物の芽 ひろ子
憂さ晴れてこころ楽しむ花の宴 つとむ
鳥雲に入るまほろばの里 昭