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〈初折表〉
日と風を入れて向日葵迷路かな ひろ子
草笛吹けば見ゆるふるさと 昭
夢を追ひあと戻りなど出来なくて 加津
野に山に錦もとめてさ迷へり つとむ
庵にて小牡鹿の鳴く声を聴き 讓
鯖雲くずれ海へと帰る ひろ子
月の夜昔のおとぎ燻べ足して 昭
影絵のやうに映し出さるる 加津
〈初折裏〉
いくさ世を逃れて来たる人ありて つとむ
その眼差しは青く澄みたる 讓
吹く風の手形のごとく関所越ゆ ひろ子
出雲の神に願ふ赤糸 昭
人恋ふて紅き花などあがなひぬ 加津
ひとり待ちゐる幸よぶメール つとむ
懐かしき封を開ければ匂ひくる 讓
峠の茶屋の長生きの水 ひろ子
いにしへの瞽女の通ひし小国山 昭
佇みてゐるしるべなき道 加津
淡月に向かひて唄ふ流行歌 つとむ
霞の中に溶け込みてゆく 讓
花人となりふる里の城址かな ひろ子
座敷わらしのねまる春の座 昭
〈名残表〉
そのかみのあの街並みの懐かしく 加津
市神の立つ菓子屋訪ねる つとむ
料亭の味の決め手は塩加減 讓
長き廊下に衣擦れの音 ひろ子
民話の会幕に控へし雪女 昭
外は風花吾が身に舞ふや 加津
ひとり酒亡き同胞を偲びつつ つとむ
共に登りし飯豊を眺め 讓
帆を張りて北前船の沖をゆく ひろ子
落暉の彼方佐渡が島見ゆ 昭
手に拾ふそのもみぢ葉の美わしく 加津
栞となせる夜長の読書 つとむ
更けゆけば月の光のさし入りて 讓
鳥の渡りを誘ふ風吹く ひろ子
〈名残裏〉
光年の中の一会の星に棲む 昭
かすかに聞こゆ別れの声か 加津
純白の心となれる雪の朝 つとむ
清き衣を着て旅立たむ 讓
日に映ゆる芽吹きの山の薄緑 ひろ子
乱るるままの野遊びの髪 昭
ゆっくりと歩みを運ぶ花のなか 加津
謐かな地球いとほしむ時 つとむ