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令和7年の年末も押し迫った12月26日、一冊の本が評者の手元に届いた。福島市在住で知り合いの武田徹氏からである。
武田氏は、平成23年に発生した東日本大震災を機に米沢市に移住し、10年ほど在住した経験を持つ。その時にふとした機会で知り合いになったと記憶している。米沢在住時に、内村鑑三によって英文で書かれた『代表的日本人』の中から「上杉鷹山」の英語部分を抜き出し、現代英語に書き改めて出版した。
武田氏は、1941年福島県郡山市出身。福島県安積高校、福島大学卒業。福島県で高校教員(英語)を務め、2001年に定年退職。1964年、実用英語技能検定試験1級を取得した。福島国際交流の会を結成し会長を務めた。ルワンダ難民「マリールイズ一家」を救出し、1997年ルワンダに帰国するまで「支える会」代表として支援活動をおこなったほか、ウクライナ戦争では、冬季間にロシアによって電力インフラを破壊されたウクライナに対して、支援物資を送るなど社会活動家の側面を持つ。元朝河貫一博士顕彰協会常務理事を務めた。
その武田氏が送ってきた本は、福島県二本松市出身者で、日本人初の米国イェール大学教授となり、世界的歴史学者として、民間人の外交官としても知られる朝河貫一(1873〜1948)に関する英文の評伝である。
朝河は、日米戦争を避けるためにアメリカ合州国大統領ルーズベルトに働けかけて、天皇宛の親書を送らせるなど、平和の提唱者となった人物である。福島県教育委員会は、1994年度から野口英世賞とともに、朝河貫一賞を制定し、中高生を表彰している。
武田氏は、これまで共著を含めて、『今に生きる朝河貫一』(2004.5.20)、『Immortal Historian Kan'ichi Asakawa』(小英文書)(2006.6.13)、『ハリファックス留任嘆願書』(2006.7.28)、朝河正澄ー戊辰戦争、立子山、そして貫一へ』(2006.8.24)、『ふくしまが育んだ朝河貫一シリーズ① T.E. ハリファックス』(2009.6.30)、『ふくしまが育んだ朝河貫一シリーズ② 朝河貫一と四人の恩師』(2010.11.19)、『百年前からの警告 福島原発事故と朝河貫一』(2014.5.15)などの朝河貫一関連の本を出版してきた。
そしてこのほど満を持して、英文でこの朝河貫一を紹介する『Kan'ichi Asakawa』を出版したものである。その理由は、「国際情勢がきな臭くなってきている今日、朝河博士の生き様と主張に耳を傾ける意義は大きいと思われます。」と述べている。
確かに、いま世界を見回せば、ウクライナ戦争、そしてイスラエルによるガザ侵攻、米国によるイランやベネズエラでの軍事作戦、中国による台湾への軍事的圧力など世界中で紛争が起きたり、軍事的大国が武力で小さな国に脅しをかけるような状況が続いている。第二次世界対戦後に国連を中心に構築された平和への取り組みが、根底から崩れようとしている。第二次世界対戦前の当時と今が似ている国際状況であるといえよう。日本が戦争をおこなった第二次世界対戦は本当に防ぐことはできなかったのか、そのような思いで『Kan'ichi Asakawa』を紹介してみたいと思うのは当然かもしれない。
朝河自身による日本語の著書は、『日本の禍機』(1909年)の一冊であり、私たち日本人が直接に朝河の著書に目を触れる機会はこれまで実に少なかった。朝河は、『日本の禍機』の中で、日露戦争に勝利した後の日本国家のありように警鐘を鳴らし、第二次世界対戦で国土が徹底的に破壊され尽くし焦土となり、敗戦を迎える日本の方向を予測している。
「今日、日本に最も必要なことは、疑う余地なく、反省力ある愛国心である。まず明快に国家の行く末に横たわる問題点を意識して、次にこれに対処するに当たって非常に厳しい反省をもって臨むのでなければ、我が国の情勢は日に日に危うくなるに違いない。」と述べている点だ。軍部の独走を許してしまった政治の責任、マスコミ、そして国民がいた。(『日本の禍機』)
朝河に関する著作は、数多く日本語で出版されてきたが、英語での著作は見かけない。今回、武田氏は、朝河が世界的な人物であるという観点から、日本人による英語での発刊が望まれるところであり、「本書はその試みの一つ」として出版したと述べる。明治時代に、日本を代表する5人の人物を紹介した内村鑑三を今に彷彿させるものである。
本書の特徴は、朝河の研究者で武田氏が英語で著したということ、さらに伝説の歴史学者・朝河貫一の評伝である。英語でのサブタイトルには、「The Last-Minute Chance for Peace:Scholar and Peace Advocate」(平和への最後の瞬間の機会:学者そして平和の提唱者)となっている。
内容は、26章からなり、ルーズベルト大統領から昭和天皇へのメッセージに始まり、朝河の1895年のダートマス大学入学、ポーツマスでおこなわれた日露平和条約への朝河の出席、朝河の武士道、日本へ引き返すように求める朝河のアピール、100年以上前の朝河の警告、朝河の珠玉の言葉など、本文180ページからなる。
英文は、中学校で学ぶ英単語と文法で書かれた、とてもシンプルなもので気軽に読める。本文中には写真が数多く使用されており、視覚的にも入りやすい。武田氏が元英語教員だったという経験は、本書の中で随所に生きている。例えば、巻末に「名詞」の意味が書かれてあり、ほかに余り見慣れない単語には説明書きが付け加えられていることで、辞書を引くことなしに読者は読み進めることができる。若い人たちに是非読んでほしい一冊である。(評者 成澤礼夫)
著 者 武田徹
発行所 株式会社エンジェルパサー
(宮城県多賀城市下馬5丁目11番6号)
発行日 2025年12月20日
頒 価 2,600円(+税)