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竹田 歴史講座

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遊学館ブックス『人々は疫病をどう乗り越えてきたか』


yugakukan 公益財団法人山形県生涯学習文化財団(山形県生涯学習センター、山形市緑町一丁目2-36)は、生涯学習の機会を県民に広く提供するため、平成2年の開所以来、様々な講座を開設し、その中で「山形学」講座はその中心的なものとして毎年テーマを変えながら開講している。「山形学」は、山形県の自然や文化など、それに関する書物や情報のあらゆるものを教材にして多様な切り口から調査、研究する地域学で、「山形を知る」、「山形に生きる」、「山形を創る」、の3つの願いを込め、自分の住む地域を知り、山形県人としてのアイデンティティを確立することで地域を担っていく人づくりを目指している。
 令和2年度は、令和3年1月31日と2月28日の2回にわたり『人々は疫病をどう乗り越えてきたか』をテーマにした講座を開講し、本書はその内容を記録したものである。
 その目的は、「疫病」に対しての医学的に正しい知見を得るとともに、太古の昔から人々は疫病をどう乗り越え、生き延びてきたのかを歴史的に振り返り、現代に生きる私たちがコロナ禍をどのように生きていくかを考えようとするもの。
 第1回講座は、「疫病と向き合うー昔と今ー」をテーマに、国立保健医療科学院生涯健康研究部主任研究官の逢見憲一氏と山形大学医学部付属病院検査部部長・病院教授の森兼啓太氏がオンラインで講演を行った。
 逢見氏は、100年前に流行した「スペインかぜ流行とわが国の衛生行政」について公衆衛生史の観点から述べ、スペインかぜは非常に大きな被害をもたらしたが、数年のうちに強毒な性質が失われて普通のインフルエンザになったことから、長らく忘れられたが今改めて見直されているという。
 スペインかぜの時も集会を禁止したり、都市との出入りの交通の遮断、学校の休校などを実施した。日本ではスペインかぜがマスク習慣のきっかけになり、流感、風邪といえばマスクという習慣が根付いたとされる。当時の内務省衛生局が作成した流行性感冒を予防するポスターを紹介した。
 逢見氏は、行政、専門家と住民が信頼関係をきちんと維持し、公正で科学的な情報も速やかに共有していくことが感染症対策の上で大事だと述べた。森兼氏は、現代の感染症対策の観点から講演を行った。
 第2回講座は、「疫病と向き合うー歴史と文化ー」をテーマに、東北芸術工科大学芸術学部歴史遺産学科准教授の竹原万雄(かずお)氏、山形大学名誉教授の松尾剛次(けんじ)氏、東北文教大学短期大学部総合文化学科特任教授の菊地和博氏が講演を行った。
 竹原氏は「明治時代のコレラ流行と山形県」をテーマにした。人類史を見ると、ハンセン病、ペスト、梅毒、天然痘、結核、コレラ、発疹チフス、インフルエンザなどがある。そして南陽市の個人宅が所蔵する『年代記』という古文書に、安政5年に発生した江戸や大坂の発生件数が書き留められていることを紹介。明治時代に目立つのはコレラと赤痢で、コレラは明治12年と明治19年に大流行した。明治12年に山形県が作成したコレラ病を発症した時に施す心得がある。竹原氏は、危機的状況は人々の繋がりを確認する機会となると述べる。
 菊地氏は民俗学より疫病退散祈願について講演を行い、山形県内の各地にある疱瘡神社や虎列刺(コレラ)菩薩の石碑などを訪ね歩いたことを解説した。
 今回の新型コロナウイルス感染症についても、過去の疫病との戦いから学ぶことが多いということを教えられる。正しい知識を学び対応することで、感染の防止や恐怖感の低減ということにつながっていくように思える。今回の遊学館ブックス『人々は疫病をどう乗り越えてきたか』は、まさに時宜を得たテーマであり、疫病を乗り越えてきた私たちの先人の歴史を知るにつけ、大きな勇気と知恵が与えられた気がする。(書評 米沢日報デジタル/成澤礼夫)

定価 本体800円+税
発行 公益財団法人山形県生涯学習文化財団
   TEL 023-625-6411
発行日 令和4年1月14日

(2022年1月28日13:45配信)