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書評 米沢市田沢地域が丸ごと1冊に『田沢郷土誌』発刊

 

ta-1 平成28年、田沢の歴史に興味を持つ数人が、田沢の歴史を総括的に整理し、後世に残すとともに、研究者への研究課題となるヒントを提供することなどを目的に、「田沢郷土誌」編集委員会(大友恒則会長)が組織された。
(写真右=発刊された『田沢郷土誌』)

 そして6年の歳月をかけて令和3年7月31日、「田沢郷土誌」が完成した。初めてその「田沢郷土史」を手にした時の驚きは言葉で表すことができない。それは頁数が1,100頁と百科辞典並の量と重さがあることや、そこに記載されている内容の学問的な範囲と深さである。まずは編集委員長の郷土史家清野春樹氏、そして編集委員たちの努力に敬意を表したい。
 大友会長は、本書の「発刊にあたって」の中で、「繋がる時の流れを返り見て、立ち止まり、先人の営みに想いを馳せ、明日を考えるための参考になれば嬉しいことです」と述べているが、年々人口減少が進む米沢市の中で、山間地エリアである田沢も過疎化の波が押し寄せ、今後、どうやって地域を守っていくか、それは喫緊の大きな課題である。その解決のアプローチとして、まず地域の歴史に学び、地域の資源、お宝を見つけ出していくことなど、自分の地域を知ることから始めなければならない。大友会長らのアプローチは、誠に王道を行くセオリーである。

ta-2(写真左=日本で一番古い塩地平の草木塔)

 田沢地区は山林地帯が多くを占めているが、江戸時代から山から木を切りだし、それを大樽川、木場川を使って木流しを行った。当時の人々にとって、木は炊事の燃料であり、暖房の薪であり、お風呂の燃料であり、建物を作る材料であり、そのほか、現在以上にその利用価値がある生活上とても大事なものだった。その木を産出する山の恵みに感謝して、あるいは畏敬して地元の人たちは「草木塔」を建立し、人々は生きてきた。そこには田沢地区独特の自然に人間は生かされているという精神文化の土壌があり、環境との共生という意味で、今では世界に発信しうる普遍的な精神という認識につながっている。令和2年5月には、「米沢市の山と暮らしを伝える遺産群:草木塔群と木流し」が山形県内で初めて林業遺産に認定・登録されたことはその証明といえよう。
(写真右=木流しに利用された大樽川)
yohaku 本書では田沢地区の石器時代から現代社会までの歴史・文化・信仰・産業・暮らしなどが網羅されている。アイヌ民族とアイヌ語との関連、宗教や民俗学的な深掘りされている内容は、清野委員長が得意とするジャンルで、その意味で清野委員長のリーダーシップや力量が遺憾なく発揮されたもの。近現代の田沢出身の人物も取り上げられている。それは過去の偉人だけでなく、今活躍する若い人をも紹介しており、地域としての大きな期待を表しているということもできる。
 本書は、出版というジャンルで考えても令和3年度の金字塔である。令和3年、新しい米沢市田沢地区コミセンの完成とも相まって、本書発刊より生じていくだろう、田沢地区の今後の発展が楽しみである。(書評 成澤礼夫)

著作 清野春樹
編集 田沢郷土誌編集委員会
発行 田沢郷土誌編集委員会
頒布価格 4,400円(限定300部印刷)
問い合わせ 田沢コミセン TEL0238-31-2111 FAX 0238-31-2937

(2021年8月6日9:45配信)